サステナビリティの再評価と防衛分野への投資

従来、サステナビリティを重視する投資家は、防衛セクターへの投資を避ける傾向にありました。しかし、地政学的動向の変化や、サステナビリティにとって何が重要かという視点の進化により、防衛産業に注目が集まっています。欧州における自立やレジリエンス(耐性)、安全保障が主要な投資テーマとして浮上する中で、BNPパリバ・アセットマネジメントのESGアナリストであるSindhu Janakiramが、サステナビリティ基準と防衛関連投資には整合性があることを解説します。

持続可能な開発のための基礎的な前提条件は、平和や安定、そして予測可能な未来です。実際に、国連の持続可能な開発目標(SDGs)16 「平和と公正をすべての人に」において、平和と公正、強固な制度が必要であると強調されています。

適切な「ガードレール(枠組み)」に基づく防衛関連企業は、持続可能な成長を可能にする社会や経済のレジリエンスに大きく貢献できると思われます。防衛インフラが脆弱であれば、国・地域は外国からの侵略やテロリズムの脅威にさらされ、経済の不安定化、住民の移転、さらには開発の停滞や破綻を招くことになりかねません。

したがって、国際法を遵守する国々において、防衛関連企業に投資することは、世界平和の維持・安定に貢献しているとみなすことができます。

サステナブル投資を実践する投資家は、防衛関連企業が責任ある政策を支持しているかどうかを判断するために、そのサステナビリティを厳格に審査すべきだと考えています。こうした判断ができる投資家は、鉱業やダイヤモンド採掘といった物議を醸す分野における課題解決に貢献してきたように、防衛産業でもプラスの影響を与えることができるでしょう。

防衛産業に投資する経済的理由

欧州の戦略的自立に関する記事でも指摘したように、欧州の防衛関連企業には魅力的な上昇余地が残されています。ロシア・ウクライナ戦争、そして米国に依存した安全保障への不透明感が強まったことによって、過去数十年にわたって防衛への投資が不十分であった欧州諸国は、再び軍事力強化の必要性に迫られています。

こうした事情から欧州連合(EU)では、防衛費増額と再軍備計画を目指す総額8,000億ユーロ規模の投資計画が次々と発表されました。その結果、地政学的緊張の高まりや世界的な軍事費増加を背景にすでに上昇基調にあった防衛関連企業の株価は、EUの投資計画が明らかになるにつれて、さらに大きく上昇することとなりました。

欧州では今後10年間に1兆6,000億ユーロ超規模の防衛関連投資が計画されており、多くの投資家にとって長期的な投資機会が生まれていることが明らかになっています。ETFへの資金フローもこれを反映しています。2024年の防衛関連ETFへの資金流入額は19億ユーロ弱でしたが、2025年に流入ペースが加速し、今年6月までに既に累計80億ユーロを超える資金流入となっています。

防衛関連企業のここ数年の株価上昇を受けて、投資家のこうした企業への投資意欲はますます高まっており、防衛関連企業の更なる上昇を後押しする要因ともなりそうです。

欧州諸国が防衛支出を長期にわたって拡大するというコミットメントに加えて、すでに相当な受注残があること、さらに防衛関連企業のキャッシュフローが堅調であることは、さらなる株価上昇の予兆と考えられます。欧州の防衛関連企業の多くは、米国に拠点を置く同業と比較しても割安に評価されており、この事実も欧州の防衛関連企業にとってプラス材料となっています。

最後に、多くの欧州投資家は、これまでサステナビリティへの観点から防衛関連企業への投資に慎重なスタンスでしたが、足元ではこれを見直す動きが出てきており、機関投資家や一般投資家からの資金流入が高まる可能性もあるでしょう。

防衛技術がイノベーションをけん引

歴史を振り返ってみると、防衛支出がもたらした副作用の一つとして、軍事分野の技術革新が民生分野へと広く普及するきっかけとなったことが挙げられます。インターネットやGPS、炭素系複合材などの先端材料は、いずれも防衛研究によって生まれたものです

こうした傾向は今後も継続するに違いません。多くの防衛関連企業は、高度な物流やサイバーセキュリティ、人工知能(AI)に多額の投資を行っていますが、すべて社会全体にとって非常に重要なものに進化する可能性があります。

当社のサステナビリティへのアプローチと防衛分野への投資

当社では、防衛関連企業が各国・地域の主権と安定の維持において果たす重要な役割を認識し、防衛産業への投資を行っています。その際、国連グローバル・コンパクトの原則1および2に沿って投資を行います。原則1および2では、企業は人権保護を尊重し、人権侵害に加担しないよう徹底すべきであると定められています。

当社は、民間人に無差別に不当な危害を与える兵器に関与する企業には投資しないことを定めた、「責任ある企業行動方針」を遵守しています。具体的な兵器として、クラスター爆弾、対人地雷、化学兵器、生物兵器といった国際条約で禁止されている兵器が含まれますが、これらに限定されるものではありません。

防衛関連企業とエンゲージメント(対話)を行い、サステナビリティに関する行動を改めさせることは、投資家にとって有益な手段であると考えています。当社は必要に応じて、企業の透明性、倫理的行動、環境責任の向上を求め、行動します。

サステナブル投資の次の段階へ

サステナブル投資の分野は成熟しつつあります。多くのサステナブル投資家は、かつてはESGへの適合性の有無という観点で各産業を評価していましたが、現在では、投資の適格性を定義するニュアンスや文脈、相互作用を深く考慮する傾向が強まっています。私たちは、防衛関連企業は安全で持続可能な世界を構築する上で重要な役割を果たすと考えています。

同時に、サステナビリティに関する報告および情報開示のルールについては、例えば、通常兵器か物議を醸す兵器か、兵器の最終顧客は誰なのか、といったことを追跡できるようにする必要があるかもしれません。

私たちはサステナブルな資産運用会社として、安全保障が社会財の中核と捉え、防衛分野への投資がもたらす財務的・非財務的メリットを評価する枠組みを作ることができると考えています。その際に、投資がサステナビリティの目標と完全に整合し続けるよう、確実に取り組むべきであることは言うまでもありません。

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環境・社会・ガバナンス(ESG)投資に関するリスク:ESGと持続可能性を統合する際、EU基準で共通または統一された定義やラベルがないため、ESG目標を設定する際に資産運用会社によって異なるアプローチが取られる場合があります。これはESGと持続可能性の基準を統合した投資戦略を比較することが困難であることを意味しており、同じ名称が用いられていても異なる測定方法に基づいている場合があるということです。保有銘柄のESGや持続可能性に関する評価において、資産運用会社は、外部のESG調査会社から提供されたデータソースを活用する場合があります。ESG投資は発展途上の分野であるため、こうしたデータソースは不完全、不正確、または利用できない場合があります。投資プロセスにおいて責任ある企業行動指針を適用することで、特定の発行体やセクターが除外される場合があります。その結果、当該指針を適用しない類似の投資戦略のパフォーマンスよりも良くなったり、悪くなったりする場合があります。